エリート室長の甘い素顔
盆の上に置かれた箸を手に取り「いただきます」と言うと、味噌汁の椀を持つ。
汁を啜って、いつも絶妙なダシと味噌の配分を味わっていると、いつから見ていたのか大谷が感心したように息を吐いて言った。
「お前って育ちがいいよなぁ」
悠里は思い切り不審げに眉根を寄せて、大谷を見た。
「よくありませんよ。うち、下町でもめちゃくちゃ古いとこですよ?」
すると大谷は首を横に振って「違うんだよ」と呟いた。
「育ちってのはそういうんじゃねぇんだ。当たり前のことを当たり前にできるってのは、ちゃんと育ててもらった証拠なんだよ」
「??」
大谷の言っていることがわかるようでわからず、悠里は首を捻った。
「たとえば食べる前に『いただきます』って言うとか、飯をちゃんと味わうとか、そういうこと。理子と会って飯食うと、ダメなんだよなぁ……食ってる最中にスマホばっか弄りやがって」
理子は大谷の娘だ。
大谷はまだ彼女が幼い頃に離婚した。
本人の話によれば、半年に一度位のペースで定期的に理子と会っている。
たしか本人は六年生くらいになるはずだが――
「え、小学生がスマホ持ってるんですか?」
そう尋ねると、大谷は大きくうなずいた。
「それも納得いかねぇんだよ。なに考えてんのかねぇ……」
遠い目でそう呟いた大谷に、悠里は苦い思いが湧いてくるのを感じた。
(離婚した奥さんがってこと……?)
汁を啜って、いつも絶妙なダシと味噌の配分を味わっていると、いつから見ていたのか大谷が感心したように息を吐いて言った。
「お前って育ちがいいよなぁ」
悠里は思い切り不審げに眉根を寄せて、大谷を見た。
「よくありませんよ。うち、下町でもめちゃくちゃ古いとこですよ?」
すると大谷は首を横に振って「違うんだよ」と呟いた。
「育ちってのはそういうんじゃねぇんだ。当たり前のことを当たり前にできるってのは、ちゃんと育ててもらった証拠なんだよ」
「??」
大谷の言っていることがわかるようでわからず、悠里は首を捻った。
「たとえば食べる前に『いただきます』って言うとか、飯をちゃんと味わうとか、そういうこと。理子と会って飯食うと、ダメなんだよなぁ……食ってる最中にスマホばっか弄りやがって」
理子は大谷の娘だ。
大谷はまだ彼女が幼い頃に離婚した。
本人の話によれば、半年に一度位のペースで定期的に理子と会っている。
たしか本人は六年生くらいになるはずだが――
「え、小学生がスマホ持ってるんですか?」
そう尋ねると、大谷は大きくうなずいた。
「それも納得いかねぇんだよ。なに考えてんのかねぇ……」
遠い目でそう呟いた大谷に、悠里は苦い思いが湧いてくるのを感じた。
(離婚した奥さんがってこと……?)