エリート室長の甘い素顔
   ***

 いつも理子と待ち合わせをする公園があるというので、そこへ向かう。


 変わらず手を繋いで歩く大谷に、悠里は戸惑った。

「大谷さん……」

「ん?」

「手……」

 大谷はこちらを振り返っていつもの笑みを浮かべる。

「いいんだよ、そのままで。俺自身を取り繕っても仕方ないだろ、娘相手に」


(それが、理子ちゃんに向き合う時のスタンスってこと?)

 悠里が大谷の顔を見上げると、彼は軽くうなずいた。

「俺は理子を蔑ろにする気もないし、理子を理由にお前のことを後回しにする気もない。どっちも、俺の大事な家族だ」


 悠里は息を呑んだ。

(大事な家族――)


 その言葉が嬉しくて微かに涙ぐむと、頭を軽く小突かれた。

「そんな顔してたら、理子に不審な目で見られるぞ?」

「あ、はい!」

 慌てて目を瞬き、軽く鼻を啜る。

 大谷は苦笑しながら顔を上げた。

 遠くで、六年生にしては背が高く細身の女の子が大きく手を振っている。


「お父さーん!」

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