エリート室長の甘い素顔
   ***

 区役所の休日窓口に、必要な書類を出す。

 大谷と悠里は、免許証を出し本人確認を受けた。

 悠里は軽く緊張してそわそわしていたが、大谷はのんびりと構えている。

 窓口の人は、窓に張り付いて興味深げに手元を覗き込んでくる理子を見ながら、戸惑った顔をしていた。

 だが、すべての確認が終わるとうなずいて、にこやかに微笑む。

「確かに受理致しました。ご結婚おめでとうございます」


 その途端、理子が「きゃ~っ」とはしゃいでその場で飛び上がった。

「おめでとう、お父さん! 悠里ちゃん!」


(え、悠里ちゃん……?)

 感動を覚える間もなく、悠里はその呼び名に苦笑してしまった。

 大谷は、両腕に悠里と理子の肩をそれぞれ抱いて言う。

「これで今日から家族だな。二人とも、愛してるぞ!」


 冗談めかしたその言葉に、理子はきゃははと笑って「理子も愛してるよ~!」と答えた。

 一方、目を丸くして顔を真っ赤に染めた悠里は、振り返った大谷と理子に、揃ってツッコまれる。

「おい、固まるな」

「悠里ちゃん、涙目だよ。可愛い~っ!」

 悠里は半分叫ぶように言った。

「ちょっ、可愛いって言うのやめて! しかもその、二人同じ顔して笑うのやめてよ!」


 大谷と理子はいつまでも豪快に笑い続け、その声は怒った悠里の声と一緒になって、広い庁舎の庭に響き渡った。




-END-
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