エリート室長の甘い素顔
番外編
SS_ 仕返し
入籍してもまだ、大谷とは別居状態だ。
二人は新生活の準備を何もしないうちに、籍だけ先に入れてしまった。
そのこと自体に不満はないが、当然このままというわけにはいかない。
まずは新居を決め、職場に届けを出し、式はどうするのかを決めるなど、必要な作業がまだまだ残っている。
そしてそれを決めるには、父の介護、仕事、理子のこと、そしてほんの少し先の将来……たとえば子どもを作るのかどうかなど、色々と二人で話し合わなければならない。
だが肝心の話をしようにも、これがなかなか先に進まなかった。
何故かといえば、悠里と大谷がまだ付き合い始めたばかりだからだ。
上司と部下としての付き合いはむしろ長いのだが、恋人としての期間はほぼ無いに等しい。
今は、恋人としても夫婦としても、二人の関係が深まったばかりの蜜月の時だった。
二人とも平日は仕事が忙しい。
そして週末は父の病院に行ったり、家のことを手伝ったり。
悠里も思うように時間が作れない。
ようやく二人きりの時間ができても、話をするよりもまず一緒にいられることが嬉しくて近くに寄り添ってしまう。
近寄れば当然触れたくなる。
触れてしまえば、それはより濃密になっていき止まらなくなる――
母や弟からも、「早く住むところを決めて一緒に暮らせ」と言われている。
自分も早くそうしたいと思っている悠里は、なるべく昼休みの空きを確保しては、大谷と一緒に昼食を取っていた。
いつもの定食屋で食事をしながら、少しだけ慌ただしくも、色々な相談をする。
だがなによりもまずは、新居を先に決める必要があった。
「お前……間取り図ばっかり見てても仕方ねぇだろ」
不動産サイトからダウンロードして印刷した何枚もの間取り図を手にしながら唸る悠里に、大谷は多少呆れた表情を浮かべて言った。