エリート室長の甘い素顔
 理子ちゃんと会うときは、やはり前妻とも顔を合わせるのだろうか――

 ふとしたときに、大谷は娘の話を口にする。

 そのこと自体はなんとも思わないが、それに付随して連想される色々な事柄は、悠里の心をたまに痛いほど締めつけてくる。

(なにか言えるような立場じゃないのに……)

 大谷にとって自分はただの部下で、それ以上でも以下でもない。

 悠里が自分の気持ちを大谷に伝えたことは、一度もない。

(なんでもお見通しなんでしょ?)

 大谷の顔を窺い見れば、呑気な表情を浮かべて焼き魚をほぐしている。


 この気持ちを知られたいのか、それとも知られたくないのか――それすら、悠里には判断がつかない。

 知られても何も変わらない気もするし、すべてがガラッと変わってしまいそうな気もする。

 大谷のことだから、わかっていて何事もないものとして扱われているのかもしれない。

 そんなことを考えると、やはり何も言えなくなってしまうのだ。

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