エリート室長の甘い素顔
02
 昼食を終えて、大谷と共に社屋のエントランスを抜ける。

 エレベーターの前に立つと、背後からよく見知った二人が声をかけてきた。

「大谷さん!」

「明けましておめでとうございまーす」


 営業部時代に大谷の部下であった、悠里の5年先輩にあたる河野祐一(こうのゆういち)とその一年後輩の桑名誠(くわなまこと)だ。

 二人とも取り巻きと呼んでもいいほどに長年大谷を慕っている社員たちだ。

「お、松村さんも一緒か」

「そういや松村ちゃん、出世おめでとー」

 二人にパチパチパチと軽く拍手されて、悠里は苦笑を浮かべた。

 専任秘書になってからすでに二ヶ月ほど経っていたが、「ありがとうございます」と言っておいた。


 一緒にエレベーターに乗り込むと、頭半分抜けて背が高く大柄な大谷と、体育会系でがっしりした河野、そしてヒョロヒョロとしてはいるが上背のある桑名に囲まれて、箱の中が余計狭く感じた。

 さっそく河野が大谷に絡みだす。

「大谷さん、新年会やりましょうよ! どうせ年末年始は一人で寂しく過ごしてたんでしょ?」

 大谷はケロッとした顔をして答える。

「おー、一人でコンビニのそば食って年越しだ」

 その言葉に、悠里も含め三人とも眉根を寄せると、じっと大谷を見つめた。

「マジで寂しすぎる……なんか俺のほうが泣けてきそう……」

「大谷さん、実家帰るとか、なんかないんすか?」

「……コンビニ……」

 大谷は三人からの悲しげな同情の視線を受けて、顔をしかめた。

「なんなんだよ、その顔は! いい歳した男が寂しいからって実家に帰るとかありえねぇだろ」

 河野と桑名のおでこにビシビシッと鉄拳を喰らわせ、ついでに悠里の頭にも軽くゲンコツが入った。


(痛くないけど、心が痛い……)

 大谷が実家に帰りにくいだろうことは容易に想像できた。
 離婚したことで親から「孫に会えなくなった」と恨み言を言われるのだと、以前大谷が漏らしたことがある。

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