エリート室長の甘い素顔
 悠里は自分よりも安藤のほうが、なぜこの場に来る気になったのか、よほど不可解だと思い始めた。

(やっぱりどこか変わった人なの?)

「あの……安藤さんは、なぜお見合いを? お相手には困らないでしょう?」

 そう問いかけつつも、雪枝おばさまのごり押しだったりしたらどうしよう……と心配になる。

 そんなの、申しわけなさすぎて居たたまれない。


「んー……そうですね。ただ結婚するだけなら、確かに相手には困らない気がします。職場にも若い女性は沢山いるし」

 悠里が顔を上げると、安藤はふふっと微笑んだ。

 穏やかで落ち着いた雰囲気の底には、揺るがない確かな自信が見える。

 それはそうだろう。学歴、職業、収入、見た目――どれを取っても、結婚相手としては遜色なさすぎである。


「じゃあ……?」

「僕は、付き合う相手には価値観や仕事に対する理解を求めます。卑屈になられたり、すり寄られたり、自分を丸ごと投げ出してこられるのも嫌いです」


 悠里は眉間にシワを寄せて、首を傾げた。

 つまり……こういうこと?

 自信がないとか、甘えられたり、依存されて尽くされたりするのはウザい、と――


「でもそういう子って可愛いんじゃないですか? お嫁さんに欲しいというか……ほら、自分が仕事忙しいと家に居てくれたら助かるし」


 もうすでに、発想が男寄りである。

 自分が仕事を続けながら、そういう風になれる気はしない。

 家にいる母の存在がなければ、悠里も仕事を今のペースで続けることは難しいだろう。

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