エリート室長の甘い素顔
   ***

 見合いから半月経ったが互いに忙しく、未だ安藤と再会はしていない。

 意外とマメな性質らしく、近況報告やこちらの調子をうかがうメールが三日に一度くらいのペースで送られてくる。


 悠里は向こうからメールが来れば、簡単に返信するだけだ。

 でも不思議なことに、ちょっとしたやり取りでも繰り返すと、段々と相手のことがわかってきたような気になる。

 一度しか会ったことがないのに、親しみみたいなものを感じ始めて、悠里はそんな自分に戸惑った。


(そもそも男性と個人的にメールをやり取りするなんて、何年ぶり……?)


 ふと思い出してみる。

 最後に彼氏がいたのは、大学を卒業する頃までだ。

 悠里はその彼よりも数ランク上の企業に就職が決まってしまい、それを気にした相手が別れを切り出してきた。

 今考えても、なんと狭量な男だろう――

 当時も理由を聞いて、相手にとてもガッカリしたのを覚えている。


 それからずっと、恋人はいない。

 仕事に必死だったのもあるが、一番の原因は――……


「おーい松村。日程調整のメール、早く返せよ」


 大谷が、自席に座りながら大きな声で文句を言う。

「はい! えっと、5分待ってください」

 ぼんやりと考え事をしていたせいで、それを見咎められたのかと焦った。

 悠里は素早くメールソフトを開く。

 なんの日程かと思えば、先日の新年会企画だった。

 メールの転送元は、営業部の桑名だ。

 企画は河野で幹事は桑名というのがいつもの定番だった。

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