エリート室長の甘い素顔
   ***

「来週、颯介が帰国するってさ」


 定食屋ニシキのテーブル席に座った途端、大谷がそう切り出した。

 颯介とは、宮村颯介――やたらとイケメンな悠里の前任者のことである。


「原田さんは?」

 思わずそう聞くと、大谷は軽く目を見張った。

「……そうだよなぁ。お前、原田さんのことは結構可愛がってたもんな」


 原田さんこと、原田ひなたは去年秘書室に異動して来た二年目の若手社員だった。

 見た目がちょっと普通ではないくらい可愛くて、引っ込み思案だが素直でとても良い子だ。

 後輩として可愛がっていたのだが、宮村と付き合っていて、NYに転勤した彼を追いかけて退職してしまった。


「おめでただってさ。今回は置いてくるらしい」


 悠里は驚きに目を丸くした。

「おめでた……もう?」

 つい漏らした言葉に、大谷が大笑いした。

「本当に、あいつらやること早ぇよな」


 仕事も早い二人だったが、付き合い始めるのも結婚するのもあっという間で、悠里にしてみれば正直羨ましかった。

(なんであんなに迷わず決められるんだろう)

 自分の生涯の相手はこの人だと――どうやったら信じることができるのか、悠里にはわからない。


「いいなぁ……」

 頬杖をついてため息を吐くと、大谷が「おいおい」と言いながら顔色を変えた。

「お前まで辞めるとか言い出すなよ」

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