エリート室長の甘い素顔
 安藤が悠里に気が付き、表情を緩めた。
 軽く片手を上げる。

 悠里も軽く手を振った。


(テニスか……)

 何か運動をするつもりなんだろうとは思っていた。

 安藤の肩にはラケットバックが掛けられ、反対の手に持ったカゴには硬式ボールが詰まっている。


「おはようございます」

 悠里から声をかけると、安藤は笑みを深くした。

「おはよう、悠里さん」

「コート借りたんですか?」

 そう聞くと、安藤は軽くうなずいてニコッと爽やかに笑った。

(うう……やっぱりイケメン……!)


「悠里さん、テニスはやったことある?」

 安藤に聞かれて、悠里は首を横に振った。

 大学の頃に遊びで打ってみたことはあるが、それだけだ。

「じゃあ教えるよ。軽くラリーが出来るくらいになってもらおうかな」


 並んで歩けば、今日はスニーカーを履いているせいか思ったより身長差があることに気付く。


「悠里さん、宮村颯介って知ってる?」


(は?)

 安藤の口から、思わぬ人の名前が出てきて驚く。

「なんで?」

「あ、やっぱり知ってた? 大学の同級生なんだよ。そういえば、悠里さんと同じ会社だったなと思ってさ」

 あのイケメン王子と同級生――!

 悠里は、感心のため息を吐いた。

(やっぱり類は友を呼ぶんだ……!)

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