エリート室長の甘い素顔
07
 大谷の正月は散々だった。


 休みがしっかり取れるのは会社としてはいいのだが、大谷にとってはあまりありがたくない。
 例年より長めの連休は、苦痛でしかなかった。


 普段は行きつけの小料理屋とか、マスターが一人でやっている常連客しか来ないような小さな居酒屋に入り浸っている。
 そこで夕飯を兼ねた惣菜をつまみながら酒を飲むのだ。

 だが、年末年始はさすがにそれらの店もしまっていて、仕事もない大谷は行くところがなくなる。


 コンビニ弁当にはあっという間に飽きて、仕方なくファミレスや牛丼屋などに入った。

 でも店内で同じような中年の一人客を見かけると、自分のことは棚に上げて、やるせない気持ちでいっぱいになってしまうのだ。


(年の暮れに、何やってんだ俺……)


 いや、逆だ。
 何もしていない。

 やるべきことが何もないのが問題だった。


 一人暮らしのアパートに帰れば、埃っぽく殺風景な部屋が大谷を迎える。

 離婚してから10年が経とうとしているが、再婚の機会には恵まれなかった。

 元嫁が引き取ったとはいえ、12才の娘がいるし、こんなやもめ男の面倒をみるのは誰だってイヤだろうと考えると、チャンスはあっても二の足を踏む。


 大谷は「結婚は好きな女としたい」と思うくらいには真っ当な感覚の持ち主だ。

 だからこそ、結婚が遠のく。

 相手のことが好きであればあるほど、自分なんかと付き合ってはいけないと考えてしまう。

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