エリート室長の甘い素顔
(あいつ、若いしなぁ……)


 こういうことを考えるとき、いつも頭に浮かぶ顔がある。

 松村悠里――

 大谷が企画部に4年、そして営業部に移って6年目になる年に直属の部下として入社してきた女性社員だ。


 当時は黒髪のおかっぱ頭。
 まるで日本人形がスーツを着て歩いているみたいだと思った。


 肌は色白で、切れ長の瞳が少しだけキツい印象を与える。
 身長はそこそこあるがひどく華奢だ。
 スーツの袖口から覗く細い手首は、自分などが握ったら折れてしまいそうだった。


 若いから、という理由だけでなく、松村は男性社員たちから人気があった。

 とはいってもチヤホヤされるというのではなく、陰でこっそり憧れているといったものだ。


 松村は見た目はいかにも大和撫子だが中身はきっぱりとした性格で、かなり口も立つ。

 誰を相手にしても怯まないし、媚びへつらうこともない。

 美人だが、決してかわいいと言われるタイプではなかった。


 松村はいつも背すじをピンとまっすぐに伸ばし、清廉な雰囲気を漂わせている。

 チャラチャラした男など相手にもしないが、そんな態度が逆に男たちには受けていた。


 実際、大谷も松村のことは入社した当時から「いい女だなぁ」と思っていた。
 だが、それだけだ。


 それがなんとなく変化したのは、ある時起きたトラブルがきっかけだった――

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