エリート室長の甘い素顔
「お前……よく手ぇ出せたなぁ」

 大谷が呆けた顔でそう言うと、颯介はギョッとして目を剥いた。

「ちょっと、大谷さん! 語弊のある言い方しないでくださいよ。向こうも普通に成人してますから」

 大谷が苦笑いして謝ると、颯介も肩を落とした。

「別に10才くらいの年の差なんて、ありがちな話でしょう?」


 そうか? ……いや、そうだ。よく聞く話だ。

 だが――


「自分のことになるとなぁ……」

 無意識に口から出た言葉に、目ざとい颯介はすぐに反応した。

「やっとその気になりましたか? 彼女ももう30ですからね」

「……は?」

 今度は大谷がギョッとして目を見開く。


「今ならまだ間に合うかな……でもあいつ、やり手だからな~……」

 眉根を寄せてブツブツと呟く颯介に、大谷は怪訝な顔を向けた。

「何の話だ?」

「松村さんですよ。この間、偶然俺の友人と見合いしたらしくて」


「見合い……?」


 颯介は真顔でじっと大谷を見つめる。

「松村さんは断ろうとしたらしいんですが、友人のほうが乗り気で。かなりデキる男なんで、松村さん、断るのに苦労するんじゃないかな」


(あいつが、見合い……)


 そういえばつい先週、昼食を一緒に食べたとき、松村の様子がおかしかった。

 おめでたの話を「いいなぁ」と羨ましがったり、退職する予定などないと、最後まで言い切らずにぼんやりしたり――


「大谷さん、いい加減腹くくったらどうですか?」

 冗談混じりの言葉かと思いきや、颯介は真剣な顔をして、こちらをまっすぐに見つめていた。

< 40 / 117 >

この作品をシェア

pagetop