エリート室長の甘い素顔
 悠里が困惑の表情を見せると、右側にいる大谷が、悠里の頭を越えて左側にいる桑名の頭をパシッと叩いた。

「桑名……いらんこと言うな」


 みんなのいる所で、どう反応したらいいか困る冗談だった。

 まして悠里の気持ちは「わかりやすい」と、さっき河野から言われてしまったばかりだ。
 ここにいるメンバーは大体皆、悠里の大谷に対する気持ちを知っていると思われた。


 何を言っても墓穴を掘りそうで、悠里は口ごもる。

 悠里はこういう咄嗟の時の切り返し、というのが苦手だった。

 自分の隠したい感情が絡んだときは余計に。


「エリートの見合い相手と付き合ってんだろ? 上手くいってんのか?」


 大谷の口からまさかと思われる問いかけが出てきて、悠里は驚愕した。
 と、同時に心臓が急激に嫌な音を立て始める。

「なんでそれ……」


「ええーっ、見合い!?」

 桑名がまたしても馬鹿デカい声で叫ぶ。

 そのせいで、今日の参加メンバーが全員、話を止めてこちらを振り返った。

(うわ……最悪……)

 悠里は下を向き、大きなため息を吐いた。

< 46 / 117 >

この作品をシェア

pagetop