エリート室長の甘い素顔
 家の近くに停めてもらい、やっと手を放した大谷は、振り返った悠里に囁いた。

「今度の週末は空いてるか?」

(週末?)

 悠里はとっさにうなずきそうになって、ハッとした。

 今週末は、安藤と会う約束が入っている――


「えと……土曜日はダメです。日曜なら……」

 悠里が軽く動揺しながらそう答えると、大谷は残念そうに息を吐いた。

「あー、日曜は俺がダメだ。出張の前泊が入ってる。……じゃあ、来週だな」


(来週? ていうか……休みの日に、二人で会うってこと?)

 悠里が窺うように大谷を見つめると、彼は口端を上げていつもの見慣れた笑みを浮かべた。

「丸一日、空けとけよ」


 それだけ言って「じゃあな」と手を上げると、悠里が車から降りてすぐにドアが閉まり、大谷を乗せたタクシーは、あっという間に走り去っていった。


 そのテールランプが視界から消えるまで、悠里はその場にじっと立ち尽くしたまま呆然としていた。

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