エリート室長の甘い素顔
 14階に戻るため、一緒にエレベーターに乗る。

 だいたい途中で、乗り合わせの社員たちは皆降りていく。

 11階に停まったら、大谷と悠里以外の人間が全員降りてしまい、そこから箱の中で二人きりになった。

 悠里は操作盤の前に立っている。

 ドアが閉まるのとほぼ同時に、背後に立っていた大谷が後ろからそっと悠里の手を握った。


 心臓がドクンッと跳ね上がる。

 全身を強張らせたまま振り返ると、大谷は軽く目を細めて微笑んだ。

 悠里は思わず目をそらしてうつむく。


(手が……熱い……)

 昨日も思ったが、大谷の体温は悠里よりもはるかに高い気がする。

 その大きくて熱い手は、14階に到着するのに合わせてきゅっと力強く握られてから、離れた。


 大谷が先に降り、悠里が後に続く。

 でも悠里はその場で足を止めると、それに気が付いて振り返った大谷に、お手洗いのほうを指して言った。


「あの、先に戻っててください。私はあっちに……」


 声は裏返らなかったが、微かに震えていた。

 心臓は全力疾走した後のようにバクバクしていて、軽く眩暈もする。


 大谷はいつもの笑みを浮かべて軽く手を上げると、先に部屋へ向かって歩き始めた。


 間違いなく赤くなっている顔をなんとかしないと、部屋に戻れない――

 悠里は片手で顔を覆いながら、くるっと踵を返してお手洗いに駆け込んだ。

< 56 / 117 >

この作品をシェア

pagetop