エリート室長の甘い素顔
 入口を入ってすぐに階段を上る。
 上は薄暗い照明の中、一つ一つは小さめの水槽がたくさん並んでいた。

 だが安藤は、そこをほぼ素通りして足早にスタスタ進んでいく。

(え? 見ないの?)


 あっという間に置いていかれそうになり、悠里は焦って彼を追いかけた。

「安藤さん、どこに?」

 そう尋ねれば、安藤は「ここじゃなくて、こっちです」と言って奥に進む。

 するとフロアの奥は吹き抜けになっていて、安藤は手すりを掴み、下の階を覗き込んだ。

「僕の目当ては、アレです」


 悠里は目を丸くしたまま、同じように下を覗く。

 すると、そこには大きな青いプールのような巨大水槽に、たくさんのペンギンが泳いでいた。


「……ペンギン?」

「そうです。ペンギンってね、一生の半分以上を海の中で過ごす鳥なんですよ」


 悠里は呆然としながら横にいる安藤の顔を見上げた。

 こちらを見た彼は、少し照れくさそうに微笑む。

「もしかしたら引かれるかなとも考えたんだけど……どうせこれが最後なら、付き合ってもらっちゃおうと思って」

「かなり好きって、ペンギンのこと?」

 安藤は笑顔でうなずく。

「ここの水族館ね、他の魚はそうでもないんですけどペンギンに関しては色々と充実してるんです」

 そう言って安藤は悠里を促し、ペンギンプールのほぼ真上から下の階に行けるスロープに向かう。
 そこを歩きながら、悠里は安藤からペンギンの生態について色々と教えてもらった。

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