エリート室長の甘い素顔
   ***

 先ほどから、館内を見渡せるカフェで変わった色合いのパフェを食べている娘は、遠目にペンギンたちの泳ぎを見ながらつまらなそうに足をブラブラさせている。


「おい、理子。それ食ったら帰るぞ」


 大谷が家でのんびりしていたら、娘の理子から急に電話で呼び出されて、「どこかに連れていけ」と言われた。

 明日から出張なのに、もし遊園地やテーマパークなどに連れて行けば疲れ切ってしまう。

 大谷は行き先を、近場でまだ理子が行ったことがないというランドマークタワーに決めたが、肝心の娘はあまり面白いと感じなかったようだ。

 ひと通り周辺をぐるっと回って、通りすがりに見かけた水族館に入った。

 歩きすぎて「足が痛い」という理子に付き合って、館内にあるカフェで休憩中である。

 まだ小学生のくせに、ヒールの高い厚底の靴を履いている。

(そんなん履いてりゃ、足も痛くなるわな……)

 最近めっきり扱いの難しくなった娘を見ながら、大谷は大きなため息を吐いた。


「ねぇねぇ、ペンギンもっと近くで見たい。ほら、触ってる人もいるよー」

 理子が大量のペンギンが泳ぐプールみたいな水槽を指して言う。

「とりあえず、そのアイス食ってからにしろ」

 そう言うと、理子は「これパフェだし」と言ってツンと横を向いた。

 小さなカップにはアイスやペンギンの形にくりぬかれたビスケットなどがトッピングされている。

「アイスも入ってんじゃねーか」

「いちいち細かいよ」

「それはお前だろ」

「あー、じゃあ似ちゃったんだね、親子だし」

「不満そうに言うな」

 理子はきゃははと笑って、またパフェの中身をほうばりだした。

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