エリート室長の甘い素顔
   ***

「ねぇお父さん。あのお兄さんもお父さんの部下なの?」

 二人を見送ってから、理子がそう尋ねてくる。

「松村がわざわざ紹介してただろ。違ぇよ」

「なんだ、そっか。また会いたかったのに」

「あ?」

 理子が残念そうに肩を落とすのを、大谷は怪訝な顔で見つめた。

「だって、すごいイケメンだったよ。理子、お姫さまになった気分したもん」

「はぁ?」


 理子曰く、後ろから人混みに押されそうになったのをうまく庇ってもらい、さらにペンギンのことを教えてくれる時の声や表情が優しくて、とても素敵だったという。


「お前……颯介と一緒ってことは、あいつ35だぞ。俺と五つしか違わねぇよ」

「イケメンに歳は関係ないよ。てゆーか、お父さんもうちょっと頑張んなよ」

「なんだと、こら!」

 愛娘にそんなことを言われ少なからずショックを受けたが、それよりも悠里のことが気になった。


(イケメンね……)

 端から見れば、大人の落ち着いたカップルだった。

 たしか颯介は、安藤のほうが見合いに乗り気だと言っていたはずだ。


 腹をくくるつもりだったのに、恋敵を目のあたりにして腰が引けるとは――

(情けねぇな……)

 軽くため息を吐くと、理子が勘違いしたのか「そんな落ち込まないでよ。お父さんが一番だよ」などと泣ける台詞を言ってくる。

 大谷は苦笑を浮かべ、黙って理子の頭をくしゃくしゃと撫でた。


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