エリート室長の甘い素顔
(大丈夫……なんとかなる……)

 父が倒れてから、初めてそう思えた。

 それは理屈じゃなく、直観に近い感覚的なもの。

 もしかすると根拠のない、ただの擦り込みかもしれない。

 でもいつだって、大谷が「大丈夫だ」といえばどんな問題だってクリアできた。


 大谷の胸に寄りかかると、また大粒の涙が溢れてくる。

 胸の中に渦巻いていた悲しみや不安が、やっと出口をみつけて一気に流れだしたように、悠里は泣いた。

 大谷もそれが落ち着くまでずっと、力強く悠里の身体を抱きしめていた。

   ***

 大谷と一緒にエリックの部屋へ今後の相談に向かう。

 悠里の泣きはらした顔を見るなり、エリックは立ち上がり、悠里の肩を優しく抱いた。

「辛かったね、悠里……お父さんの具合は?」

「……すみませんご心配おかけして。実はあまり、良くなくて……」


 ソファに促され、大谷と並んで腰掛ける。

 その向かい側にエリックが座った。

「じゃあ、お父さんはほぼ寝たきりの状態に?」

 エリックの問いかけに、悠里はうなずく。

「たぶん、今後ずっと介護が必要になります。母は専業主婦なので、父の面倒はみられると思うのですが……」

 大谷は軽くため息を吐いて言った。

「経済的なところが問題か。たしか弟は、今年から役所勤めだったな」

 公務員で休みは取れても、新卒で入ったばかりの弟の手取りは、タカがしれていた。
 それに大学の奨学金返済も残っている。

「つまりお前が稼ぎ頭だ。業務は減らせないな」

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