エリート室長の甘い素顔
 この会社は外資系だけあって、社内の人事システムは割と順応性がある。
 育児や介護をしながら働けるような、時間を選べる短時間勤務制度などもある。

 だが、それらを利用すれば給料は目に見えて減らされる。
 働きや成績に応じて給料が上下するというのは、バリバリやる分にはいいが、それが出来ない時にはキツいものだ。


「んー……じゃあ、ひとまず容態が安定して、ご家族の生活リズムが整うまでは、悠里の仕事にもフォローが必要ってことだね。異動しないで済むように、なんとか頑張ろうか」


 エリックは軽く微笑みながらそう言って大谷を見つめる。大谷はうなずいた。

「ちょうどいいんで俺がフォローに入ります。そろそろ俺の仕事を補佐に引き継がせようと思ってたんで」


「えっ」

 悠里とエリックは目を丸くする。

「大谷さんが僕の秘書をやるの?」


「なにか問題ありますか?」

 大谷の問いかけに、エリックは意味ありげに笑って肩をすくめた。

「僕、命でも狙われてるんじゃないかと誤解されそうだね」


「は?」

 大谷も悠里も怪訝な表情でエリックを見る。

「だって大谷さんはどう見ても秘書っていうより、ボディガードだもん。あ、仕事のほうは何も心配してないよ」

 エリックはそう言って楽しげに笑うと、今度はまっすぐに悠里を見つめた。


「ここが踏ん張りどころだよ、悠里。人生には何度かこういう時がくる。何か困ったら抱え込まずに周りを頼りなさい。いいね」


 また目に涙が滲む。

 悠里は二人に深く感謝しながら、何度もうなずいた。

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