エリート室長の甘い素顔
 お茶を煎れるために湯を沸かし、見舞いのケーキ箱を開けてみる。

 中には、クリームプリンとモンブラン、ショートケーキとチョコレートケーキが入っている。

「安藤さん……さすがにこんな、食べられませんよ」

 悠里がそう言うと、安藤は笑った。

「何が好きか知らなかったから。残りはお母さんと海里くんで分けて」

 悠里は少し考えて、母と弟の好みをより分けてから安藤に尋ねた。

「安藤さんは、ショートケーキとチョコレートならどっちがいいですか?」

「僕はどっちも好き。悠里さんが好きなほう選んでいいよ。君に買ってきたんだから」


 悠里はソファで普通にリラックスした様子の安藤を見て、肩をすくめた。

(いつの間にか、するっと馴染んでる……)

 自宅のリビングに安藤がいることに、あまり違和感がないのが不思議だった。

 強いて言うなら「遊びに来た親戚のお兄さん」みたいな感じ。

 彼にこんな特技があるとは――


 そう考えて悠里は、いや……と思い直した。

 思えば初めからそうだったかもしれない。

 人に警戒心を抱かせず、礼儀正しく爽やかで親しげ。

 初対面だった雪枝おばさまや母をあっという間に虜にしていた。


 安藤の前にお茶とチョコレートケーキを出す。

 それを見て、安藤は微笑んだ。

「悠里さんはショートケーキが好きだった?」

「……イチゴが、好きなので」

 そう答えると、彼は嬉しそうにニコッと笑って、悠里にも座るように促した。

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