エリート室長の甘い素顔
 向かい合ってケーキを食べながらお茶を飲む。

 何度か食事を共にしたこともあり、二人でいることに抵抗はない。

 だが外で会っているのとは違い、二人きりでいることに対する微かな緊張感は消えなかった。


「悠里さん」

 穏やかな声で呼ばれて、顔を上げる。

 食べかけのケーキの横にフォークを置いて、首を傾げた。

「なんですか?」

「僕と、結婚しませんか」


 一瞬、思考が停止した。

 ぼんやりと安藤の顔を見つめ、ようやく「え?」という言葉だけが漏れる。


「お父さんの状態は理解しています。これからずっと家族皆で介護をしていく必要があると聞きました。……僕も協力します。正直なところ時間はそこまで作れませんが、経済的な助けにはなれると思います」


(なぜ、そんなこと……)

 悠里は眉根を寄せて、彼の顔を見つめる。
 その表情は柔らかく、でも瞳はまっすぐに悠里を見つめていた。


「あなたには、何のメリットもないじゃないですか……」

 そう呟くと、安藤はふふっと自嘲的に笑った。

「ありますよ。君という人生のパートナーができる。悠里さん、僕はこの間君に振られて実はかなり落ち込んでいたんです。それで気付いた」

 安藤がスッと立ち上がる。

 悠里は反射的にビクッと身体をすくめた。


「あなたが好きです。僕との結婚を……もう一度考えてみてくれませんか」


 テーブルを回り悠里の足下に跪いて、安藤はこちらを見つめる。

 悠里が膝の上に置いていた手を包むようにして、優しく握った。

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