エリート室長の甘い素顔
 ふと机の上に目をやり、入口に向かって小さな熊手の置物が置かれていることに気が付く。
 悠里はその可愛らしさに思わず微笑んだ。

 エリックはフランス人だが、そこらの日本人よりよほど日本的な感性を備えている。

 悠里の視線に気付いて、エリックも笑みを深くした。

「かわいいだろう? 結子と一緒に酉の市に行ったんだ」

 愛妻家のエリックは奥方の結子夫人をとても大切にしている。
 頻繁に結子夫人の話を聞かされるので、まだ面識がないにも関わらずよく知っている人物だと錯覚してしまうほどだ。

「いいですね。商売繁盛の縁起物ですから」

「そうそう。今年も業績向上のためにせっせと働かないとね」

 エリックが軽い調子でそう言って肩を竦めてみせたので、悠里はさっそくスケジュールの確認と最初の会議に使う資料の説明を始めることにした。


 頭の休むヒマもない過密スケジュールだった年末から一転して、年明けの初日は仕事もまだスローペースでゆとりがある。

 少し早目の昼休みも問題なく取れそうなので、悠里は内心ほっとしながら午前中の業務をこなした。

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