エリート室長の甘い素顔
   ***

 母と弟にせっつかれて、最初の曲がり角まで安藤を見送りに出た。


「今日、本当にありがとうございました。お礼のつもりだったのに、こっちが助かりました」

 そう言うと、安藤は嬉しそうに言った。

「じゃあ、また今日のお礼を期待することにします」

 悠里がぽかんと口を開けると、安藤はその顔を見て笑う。

「またお見舞いに来ます。お母さんから料理を習う約束もしたので」


(いつの間に?)

 悠里が目を丸くすると、彼はニコッとして言った。

「グズグズしていたら僕は多分、数ヶ月後には君の夫になっているかもね」

「おっ……?」

「僕は本気です。あなたも決着をつける覚悟を持って……できれば、僕を選んでほしい」


(決着をつける覚悟……)

 それは当然、大谷に対する気持ちのことだ。

 さすがの安藤だって、いつまでも他の男を思ったままの女を妻にする気はないだろう。


 悠里がうつむいた隙をついて、安藤はこめかみのあたりに軽くキスをした。

「あっ!」

「今日のお礼はこれで充分です。寒いから早く戻って。おやすみ」


 軽く手を振って足早に去っていく安藤の後ろ姿を見ながら、悠里はふぅっとため息を吐いた。

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