エリート室長の甘い素顔
 携帯を抱えて目をつむると、しばらくしてまたポロロンと鳴った。

「え?」

 画面を見れば、また大谷からメールが来ている。

「は? あれ?」

 悠里は、冷や汗を流した。

(やだ……もしかしてさっきの、うっかり送っちゃった?)

 二通目のメールを開いて、悠里は心臓がドクンと跳ね上がるのを感じる。


『最寄り駅まで出てこい』


 息を呑み、悠里は慌てて立ち上がった。

   ***

 もうすっかり化粧も落として寝るだけの状態になっていた悠里は、寝間着を脱いで、細身のパンツにセーターとコートを着込んだ。

 うっすらしたファンデーションと眉を足し、リップクリームを塗るだけ。

 時間がないし、しっかり化粧をしすぎるのも何か嫌だった。


 弟と母に気付かれないように、こっそりと階段を下りる。

 靴を履き、慎重に玄関の鍵を回すと、思った以上に音が響いてヒヤヒヤした。

 なんとか静かに外へ出ると、再び鍵を閉めて、駅のほうに歩き出す。


 すでに終電ギリギリの時間だ。

 地下鉄の階段出口のところに立つ大谷の姿を見たとき、悠里は思わず泣きそうになった。

(本当にいた……)

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