エリート室長の甘い素顔
15
 大谷のアパートは、築年数がかなり経っていそうな雰囲気の一階の角部屋。


 悠里の家の周りにも同じようなアパートは多い。

 人がやっと一人通れるくらいの幅の通路を、一番奥まで進んでいく。


「あんまキレイなとこじゃなくて悪いな」

 そんなことを言われて、悠里は目を丸くした。

「大谷さんが、そんなキレイな所に住んでたら……逆に違和感あります」

 大谷はくくっと肩を震わせて笑った。

 普段なら豪快に笑うのだろうが、夜中だから声量を抑えている。


 鍵を回してドアを開け、こちらを振り返った。

「入れよ」

 悠里は大谷の顔をチラッと見て、緊張しながら中へ足を踏み入れる。

 すぐ後から入ってきた大谷の大きな身体に押され、狭い土間でバランスを崩しそうになった。

「わっ」

「おっと」

 とっさに大谷の腕が腰に回され、抱き留められる。

 広い胸に密着する格好になって悠里は息を呑み、全身を緊張で強ばらせた。


「おい、そんなに意識するな……煽るんじゃねぇよ」

 大谷が耳元で囁く。

「え……?」

 悠里の口からは掠れた声が漏れた。

 全速力で走った後のように、心臓は高鳴っている。

 困って大谷の顔を見上げれば、彼は苦笑いしながら顔を近づけてきた。

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