エリート室長の甘い素顔
   ***

 大谷が昼食時に向かうのは、決まってここ――社屋から徒歩五分の場所にある定食屋『ニシキ』である。

 ほんの少し早めに部屋を出て、ちょうど昼休みが始まる時間に店に着く。
 いつものパターンだ。
 大谷が、座れずに並んで待つのを嫌がるためにそうしている。


 店に入れば、顔馴染みのおばさんが「いらっしゃい」と二人を迎えた。

「松村さん、久しぶりじゃないの」

 そんなことを言われて、悠里は苦笑を浮かべながらうなずいた。

「ちょっと忙しくて」

 するとおばさんは、大谷を軽く睨んで言った。

「大谷さん、上司なんでしょ。若い子こき使っちゃダメよ」

「あ? こき使ってんのは俺じゃねぇよ」

 不服そうに口を尖らせた大谷は、店奥の空いている席に座って、「焼き魚定食、二つな」とおばさんに言った。

 向かい側に腰掛けた悠里は、不満げに眉根を寄せる。

「だから、勝手に頼まないでくださいよ」

 ここに来ると、いつも大谷は勝手に焼き魚を頼む。
 肉も日替わりも色々あるのに――

 振り返った大谷は、じっと悠里を見つめてからニヤッと笑った。

「お前も諦めが悪いね。いくら迷ったって結局これにするくせに」


 悠里はむうっとして下を向いた。

(その何もかもわかってます、みたいなの、ムカつく!)

 実際、お見通しなことが多いのだ。
 付き合いも長いし、部下としてそれなりに可愛がられているのもわかっている。
 でも――

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