エリート室長の甘い素顔
16
 おでこの辺りを、温かいものが触れていく。

 ふっと離れたかと思えば、今度は頬を撫でて、軽く摘ままれるような感触。


 その温かさは気持ちいいが、眠りそのものを妨げられて、悠里は顔をしかめる。

(ん? なあに、これ……?)

 寝返りして顔を背けても追いかけてくる感触に、ようやく悠里の意識が浮上し、頭の中もゆっくりと覚醒する。

 微かにまぶたを持ち上げれば、目の前には何故か裸の広い胸板が視界いっぱいに広がっていた。


(んん?)

 驚いてパッチリと目を見開くと、頭上からくくくっと可笑しそうな笑い声が降ってきた。

「おはよう、松村。よく眠れたか?」

(あっ! そうだ私、昨日――)

 大谷の声を聞き、昨夜の記憶が一気に舞い戻ってきて、悠里は恥ずかしさのあまり顔が熱くなった。

(どうしよう……)

 顔が上げられず、悠里はむしろ丸くなって大谷の胸に額を押し付ける格好になる。

 昨夜は大谷とあんなことやこんなことを、なんだか沢山やらかしてしまった――


(でもあれはなんていうか、ぼうっとして夢の中にいたみたいな……)

 あれが平気だったのはきっと、深夜だったからだ。

 こんな明るくなってから、目が覚めていきなり布団の中で裸で対面とか……

(無理!)

 悠里は手で覆った顔が火照って熱いのを自覚し、ますます小さく丸まった。

 起き抜けなのに、心臓がドキドキしすぎて痛い。

< 90 / 117 >

この作品をシェア

pagetop