エリート室長の甘い素顔
「おい。目ぇ覚めたんならもう一回やらせろ。昨日のあれだけじゃ、物足んねーんだけど」

(は?)

 大谷の言葉に、悠里は思わず顔を上げた。そして彼と目が合って更に驚く。

(髪が下りてる……)


 大谷の髪は全体に短めなのに、整髪料か何かでいつもパリッと固めている。

 前髪は軽く立たせて後ろ向きに流してあるから、それがふわりと額に落ちているのを見るのは初めてだった。

(印象が全然違う)

 下手に長年の付き合いがある分、初めて見る姿というのが新鮮すぎて、悠里は口を開けたままポーっと見惚れてしまった。


「おーい、聞いてたか? もう一回やらせろって」

 大谷におでこをつつかれて、悠里はハッとする。

(え、なに? もう一回って……)

 大谷の要求内容がやっと頭に入ってきたのと同時に、また悠里の顔は真っ赤に染まった。

「無理ですっ! 朝からそんな事したら、恥ずかしくて死にますっ!」


 それを聞いた大谷は一瞬目を丸くした後、ゲラゲラ笑って言った。

「これから散々やりまくるんだから、いちいち恥ずかしがってたら、心臓がもたねーぞ?」

 悠里は、それを聞いて全身を硬直させた。

「やっ、やりまくるって……ちょっと!」

(もう少し、言い方ってものがっ……)


 すると大谷は、わざとらしく表情を曇らせて言う。

「なに? じゃあお前……もう俺とやりたくねーの?」

「は? そ、そんなこと言ってませんっ」

 そこで大谷はニヤッと笑うと、悠里の顔を大きな手で包むようにして固定した。

 これでは、顔を背けることが出来ない。


「じゃあやろうぜ。一日中とは言わねぇから。今日は一回だけでいいよ」

「今日はって……」

 ツッコミどころがありすぎて、どこから手をつけていいのかわからない。



 結局長い長い「一回だけ」を終える頃には、悠里は羞恥もどこかに吹き飛び、大谷との体力の違いをしみじみと実感することになった。

< 91 / 117 >

この作品をシェア

pagetop