エリート室長の甘い素顔
   ***

 一緒に通りへ向かいながら、悠里は首を傾げる。

「大谷さんはどこに?」

「あ?」

 大谷はチラッと悠里のほうを見て、でも問いかけには答えずに、悠里の手を握った。

 悠里は全身をビクッと硬直させる。

「……な、何してるんですか」

「手握っただけだろ」

「なんで?」

「なんでって……そういうもんじゃねーの」


 手をつないで歩くことを「そういうもん」と言われて、悠里は驚きに目を丸くした。

(そ、そうなんだ……)

 大谷にとっては、これが普通ということなのか。

 しかし、それが普通じゃない悠里にとっては、慣れない状況に緊張して身体がギクシャクしてしまう。


「お前、動きが変だぞ」

「誰のせいですか」

「は? 俺のせいなの?」

 大谷は苦笑して、繋いでいた手を放した。

 緊張は治まったが、手を放されてしまったことを寂しく感じる。

 すると大谷が、悠里の顔を覗き込んで言った。

「不満そうだけど。一体どうしたいの、お前は」

 少し迷ってから、おずおず手を差し出すと、大谷はくくっと笑ってまた手を握った。

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