エリート室長の甘い素顔
 互いに叫んで息を切らし大きく息を吐くと、そろそろっと家の玄関ドアが開いて、弟の海里が顔を出した。

「ねえちゃん……そこいら中に丸聞こえなんだけど……」


 え、と顔を上げると、気が付けばご近所が皆、興味津々といった表情でベランダや窓から顔を覗かせている。

「~~っ!」

 悠里は慌てて大谷の腕を引き、弟を押しのけて彼を家の中に引っ張り込んだ。


 ドアを閉めてため息を吐くと、背後で大谷と弟が目を見合わせていた。

「……はじめまして。弟の海里です」

 目を丸くしながら、弟がまず口を開く。

「大谷寿史だ。よろしく、海里くん」

「大谷さん、いくつですか?」

「悠里の10コ上」

「……マジ?」

 混乱しているはずなのに、弟の目は楽しげに大谷と悠里の間を行ったり来たりしている。


「とりあえず上がって下さい。母ちゃんもうすぐ帰ってくるから……」

 そう言いながら、弟がいそいそとスリッパを出そうとした時、なんと言えばいいのかわからないこのタイミングで、背後のドアが開いた。

「ただいま~……って、わっ! 誰!?」

「あ……」

「え、あら? 悠里も?」


 今度は玄関先で、帰ってきた母と大谷が向かい合う。

 母は目を白黒させ、背の高い大谷をポカンと見上げた。

「はじめまして。大谷寿史といいます」

 大谷が落ち着いた声で挨拶すると、母は目をパチパチパチと高速でまばたきしながら聞き返した。

「大谷さん……て、もしかして上司の大谷さん? 悠里が入社してからずっと一緒だっていう……」

「ああ、はい。それです」

「まあ! 娘がいつもお世話になってます。でもどうなさったの、こんなところまで……」


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