エリート室長の甘い素顔
 母はじっと大谷を見つめると、微かに眉根を寄せて尋ねた。

「……離婚の、原因をお聞きしてもいい?」

 大谷は静かにうなずく。

「はい。入社して六年目の時に一年間海外赴任をさせられました」


 悠里も初めて聞く離婚の話に、半ば呆然としながら大谷の顔を見つめる。

「その海外赴任が終わりかけの頃……二人目の妊娠が発覚しました。ですが俺は赴任中、忙しくて日本には一度も帰れなかったんです」

「「「ええっ?」」」

 今度は悠里も一緒になって、三人同時に声を上げた。

「まあ……そういうことです。戸籍の関係から、妊娠が発覚してすぐ離婚という運びになりました。あちらはその二人目の子の父親と再婚して、今も一緒に暮らしています」


 母は呆然としながら「そうですか……」と呟いた。

 大谷はもう一度頭を下げて言う。

「こういう事情を抱えてますので……なかなか踏み切れずにここまできました。ですが彼女が見合いをしたと聞いて……たまらず決心しました。どうか、悠里さんとの結婚をお許しください」


(……見合い?)

 悠里はじっと大谷の横顔を見つめたまま、その言葉を反芻する。

(なかなか踏み切れなかったってどういう……)


「じゃあ大谷さん、ずっとねえちゃんのこと好きだったの?」

 弟の呑気な声が響き、悠里は「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。

「な、何言ってるの? 違うでしょ、それは……」

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