噂の壁ドン
「おはようございます。」
「昨日は、ごめんなさい。」

スタスタっと控え室へ。


「さあ、今日も、よろしくね。」
笑顔の並木さん。

今日は、凄く忙しい。と言うのも
得々セールで人気のケーキが3個以上買うと、一個好きなケーキがもらえる。
そんなこんなで、店は大賑わい。

気がつけば、2時。
「あっ!すみません。迎えの時間が!」
「気がつかなくてごめんね。間に合うかなぁ?」
「誠一郎!車出してやれ!」
「おれ!?はぁ〜。マジかよ。
しゃーねぇな〜。」


黒いミニバン。
助手席に座り
「お願いします。」「あ〜」

無言の車内に堪らず私は、
「あの〜。ごめんなさい。さっきは、
余計なことをしてしまって。」
「いや…。俺こそ、怒鳴ってしまって悪かった」
ぎこちない会話をしていたら。
「ここか?」
「ありがとうございました。間に合いました。」

助手席のドアを開け車からおりた。
「真矢〜!ごめんね。」
「ママ〜!遅いよう!」
ちょっぴり、涙目。

抱きしめて、心の中で
気をつけるね。と何度も繰り返した。

帰宅後、夕食の準備をしていたら

「貴美!!迎え遅れたのか!園から
連絡入ってたぞ!何やってんだよ!」
「ごめんなさい。でも…少し…。
間に合ったの…だから」
持っていた鞄をダンッと床に叩きつけ

「主婦の片手間みたいなバイトなんか!
やめてしまえ!」
ガタン、椅子が倒れた。
理解してくれない拓美の態度に思わず
「なんで!そんな風に言うの!!理由も聞いてくれないの?酷いよ…。
悪いのは…私だけど…でも…」
溢れるて止まらない涙。

私の中でプチンと糸が切れてしまった。
「もうー!嫌!限界!」
近くにあった財布を持つと
私は、家を飛び出した。

向かった場所は、並木さんのお店。

従業員入り口付近から明かりが漏れていた。
まだ、のこってるのかなぁ?

「今晩は…。」
「お前…。」
泣いたんだとわかるくらい、
化粧がボロボロだった。
「どうした?なぁ?なんで、
泣いてんだ?」
迎えに遅れたことで、旦那に仕事を
片手間扱いされ、辞めろと言われたこと

話しているうちに、涙がまた溢れてきた。

泡立て器を置き、私を見つめる
誠一郎さん。

連絡ボードの壁と誠一郎さんの間にはさまれる。
ドン!!えっ??噂の?ドン?
顔が近い。
ドックん。何?
彼の細く長い掌が壁につく。
「そんな、優しさもない旦那なんかやめて、俺を見ろよ!!」
「えっ…。何?」
ふんわりと私の頬に触れた掌。
甘い香りのキッチン。
柔らかな唇が私の唇と重なった。
「ふぅうっっん」
「泣くなよ…。そんな顔すんなよ。
旦那から、奪いたいよ。ずっと我慢してたのに…。もう無理。」

「誠一…郎…さん」
「好きだ。貴美…さん。」
身体に電流がはしる。
立っていられない。
フラっとした。ぐっと私を引き寄せ
強く抱きしめて、もう一度唇づけた。
「何で……。」
私…。混乱して
飛び出した。


とぼとぼと歩きコンビニの前を通りすぎる…。
「待てよ。貴美!!」
「誠一郎さん…」
「送る。」

触れる肩。
暖かな手が私の腰を抱く。

「あの…。」
「黙って」
「全部捨てて、俺の事好きになれよ。
俺は、泣かせたりしない」
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