Smile!
Prolog
「ここね……」


猛暑。


あぢーですよー。


私、飛騨璃 美姫(ひだり みき)は汗だくになりながら、一軒の貸しテナントの二階に来ていた。



思えば事の発端は、偶然パラパラとめくっていたゴシップ雑誌に載っていたちっちゃなちっちゃな記事―――



『Smile!探偵事務所 ナクシモノ見つけます ×××-○○○○』



たったそれだけの記事。


まぁ普通に考えると胡散臭いにも程がある……つーか気にも止めない。


1センチ角程度しかないその記事を気に止めたその人は、随分几帳面にページを読む人か、はたまた宝くじに当たるくらいにラッキーな人なのか。


「でも私は現にここにこうやっているしなぁ……」


うん、ラッキーガールってことにしとこう♪


私は、けっこーポジティブで生きてきた人間だ。



事務所はかの有名なベイカーストリートの某下宿のよう……なはずはなく、埃っぽい階段を上った先には呼び鈴のついたごくふつーの灰色のドアがどーんと?立っていた。


そしていらっしゃーいとばかりに派手な(汚い)字で


『Smile!たんでいしむしょ』


と、赤で書かれた掛け札がぶら下がっている。


(うわーきったない字ぃ〜?)


顔を近づけてよくよくよくよく見てみると、実は『Smile!』だけは見事な達筆な字で書かれていた。


……だから?


(私、来るところ間違ったかなぁ?だって書いてあるのが『たんでいしむ』―――)


ベキッ!


らららららら?


ドアに手を置いた瞬間、建て付けの悪さが分かりやすい形となって現れた。


気づけば支えの金具の崩壊に合わせて、私はドアと共に事務所の中にダイブしていた。


「ギャフン!」


―――さすがにそこまでは言ってなかったかもしれない。


「ふぎゃっ!」ぐらいは言っただろうけど。


「ん?客か。この暑いのにやけに騒々しいな……」


なかなかの破壊音が響いたにもかかわらず、その人は平然と回転椅子から立ち上がって(うちわで扇ぎながら)挨拶し始めた。



「ようこそ、怪力少女さん。『Smile!探偵事務所』へ」
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