チューリップの花束に愛を込めて
Prologue
『亜季、誕生日おめでと』
私の部屋のドアを開けて、屈託のない笑顔をみせながら、彼はお祝いの言葉をくれた。
『健太』
彼の名前は前田 健太、そして、あたしの大事な幼馴染。
健太は自分の体で隠していたものを、サッとあたしに差し出す。
『亜季、黄色のチューリップ、好きだろ?』
健太は再び屈託のないその笑顔で、そう言う。
『覚えててくれたんだね~、ありがとう』
あたしの大好きな花、それは黄色のチューリップ。
チューリップは赤やピンク、紫、白、オレンジだってあるけど、その中でもあたしはこの黄色のチューリップが大好き。
あの日から健太は、毎年、あたしの誕生日にこの黄色のチューリップをプレゼントしてくれる。
『おばさんに頼んで、これ、俺がラッピングしたんだー』
あたしの家は町の小さな花屋さん。
お母さんが昔からお花屋さんになるのが夢で、お母さんに甘いお父さんが去年自宅を改築して、店舗兼自宅にした。
その店舗部分で切り盛りしているお母さんに教えてもらいながら、健太がラッピングをしてきくれたんだろう。
プロのお母さんがやったのに比べて、下手くそ。
でも、このラッピングをしてくれたとき、その一瞬でもあたしを喜ばせようと考えてくれた、その気持ちが何よりも嬉しい。
何を隠そう、あたしはこの屈託のない笑顔を見せる幼馴染の健太に、もうずっと片想いをしている。
『俺、けっこううまくない?』
『健太、この辺とか雑すぎだよー』
『え、どこ?』
不意に健太の前髪があたしの顔に触れる。
そのくらい、近いところに健太がいて、あたしの心臓はネジが吹っ飛んで壊れてしまうんじゃないかってくらいドキドキしていた。
『どこ?』
『…え、あ、この辺…』
あたしが指を指すと、
『あぁーここね、うん、初めてだし、これも愛嬌だよ』
彼はそう言って、また屈託のない顔で笑った。
この屈託のない、この笑顔が好き。
もう、ずっと、ずっと前から。
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