チューリップの花束に愛を込めて



けど、遅かった。




部屋には、健太と由奈ちゃん、そしてちょうど友達がでてくるところだった。



『良かったー。
 健太一人でよかったよね』


『だよねー。あの子いると由奈も告りにくいだろうしねー』


そんな会話が聞こえてくる。



あぁ…


あの子は健太に今、伝えてるんだね…





あたしはまた足が動かなくなった。



今、行けば。


まだ告白を阻止できるかもしれない。




でも。


遅かれ早かれ、健太が由奈ちゃんを好きで、由奈ちゃんも健太のことが好きなら。

きっと、今を邪魔しても、別のタイミングでどちらかが想いを告げるのだろう…。



それなら、今、止めても何も変わらない…



そう考えてしまったら、あたしは尚の事、その場から動けなかった。



しばらくして、由奈ちゃんが部屋から出てきた。



『突然ごめんね、でも嬉しい。
 健太くん、ありがとう』


そう言って、あの子は微笑んだ。

まるで、あの子が笑った、そこから花が舞うかのように。




だから、悟った。


由奈ちゃんが健太に想いを告げて、健太がその想いを受け取ったことに。




『じゃ、今夜、メールするね』


あの子はそう言って、手をひらひらと振る。


あたしは身を隠した。





そっか。


そっか…



健太、実ったんだね…



健太に彼女が出来たんだね…




もう体に力が入らない。


あたしはその場にズルズルと倒れ込んでいく。






『…やだよ……やだよ……健太………嘘って言って…健太……』





ねぇ、健太。


嘘でもいいから、由奈ちゃんの告白を断ったって言って?


嘘でもいいから、由奈ちゃんとは付き合わないって約束して?



ずっと、ずっと、あたしだけの健太だって、そう、言って?





『……健太……』




もう部屋には戻れなくて。


あたしは制服のスカートのポケットに入れていた携帯を取り出す。




【やっぱりお腹痛すぎで帰るね、ごめん】


そう、健太の携帯に送信した。




すぐに【大丈夫か?】って返信したけど。



何も返せなかった。

健太は30分ほど部屋にいたけど、部屋から出て行く、その後ろ姿をあたしは壁に隠れながら、そっと見つめていた。




その後ろ姿は、ほんの前までの健太のものとは違う気がした。




そして、夜、


【俺、由奈ちゃんと付き合うことになった】


そう、メールが届いた。



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