チューリップの花束に愛を込めて
並んだ 並んだ




【良かったね、おめでとう】


あたしは朝方、そう返信を打つ。



健太からの受信メールを見るたび、健太が由奈ちゃんと付き合うことになった、その事実を何度もあたしに教えてくれる。





『…健太の……バカ野郎…』


そう呟くも、もう起きなければいけない時間。


目覚まし時計がなる一分前。



ピピピピピ…



目覚まし時計が豪快に鳴り響く。


昨日まではこの音を聞いて、起きて、健太に会うのが楽しみだった。

だから、どんなに早起きになっても、寝不足だったとしても、楽しく起きれた。



でも、今日は…正確に言えば今日からは違う。



健太は、起こし係は“あたし”に、そう言った。


でも、彼女ができて、健太は考え方が変わったかもしれない。


それなのに、健太を起こしに行ったら…ダメ、だよね…。



それでも、もう何年も朝の日課だったから、あたしは制服に腕を通した。




結局どうしていいか分からず、あたしはいつもより早くに家を出た。






ピンポーン


健太の家のインターホンを鳴らし、健太のお母さんが玄関のドアから顔を出す。




『あら、亜季ちゃん、おはよ。
 いつも健太がごめんねー』


明るい、健太のお母さんの声に涙が出そうになる。



『あ…いえ』


『もうあたしなんかが起こすんじゃダメなんだよねー。
 亜季ちゃんの起こし方が上手いからかな?』


健太のお母さんが笑えば笑うほど、今日、健太の部屋に入ってもいいのか悩む。




『さ、亜季ちゃん、どうぞ』


玄関を通される、でもあたしはそれでも戸惑う。



『…亜季ちゃん?』


『あ…ごめんなさい…』


あたしは健太の家の玄関に入る。



『亜季ちゃん、よろしくね』


健太のお母さんにそう言われ、あたしはいつものように階段を上っていく。




『…健太…入るよ…?』


あたしはそっと健太の部屋のドアノブを引く。


ドアが開いた、そこには健太が制服に着替えて、座り込んでいた。




『……健太…?』



『あ…亜季』


呆然と座り込む健太に、あたしは近づく。




『…起きれたんだ?』



『あ…いや、なんか昨日由奈ちゃんと付き合うことになって嬉しくて、寝れてない…』


健太はそう言って、でも嬉しそうに微笑む。



あたしの大好きな微笑み。



でも今日は違う。



『…そっか、おめでとう、健太』


あたしの好きな微笑みだけど。


でも、今の微笑みはあたしにじゃない…。


由奈ちゃんとのことで微笑んだ。



だから、その微笑みが痛い。




『俺、シャワー浴びてくるから、ちょっと待ってて』


健太はそう言って、部屋を出て行く。




そんなに…


そんなに、

あの子と付き合えて嬉しい?


お風呂入るのを忘れて、眠れないくらい、そんなに嬉しかったの?







ごめん、健太。


あたし、健太の一番の理解者でありたい、そう願ったけど。



でも、無理。



あたし、笑えない…


心から“おめでとう”って言えてない。




ごめん。


ごめんね、健太。


優しい“幼馴染”じゃなくて。






ごめん。



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