チューリップの花束に愛を込めて
あか、しろ、きいろ
朝。
あたしは一人で起きて、学校の支度を始める。
今日から健太の部屋にはいかない。
今日から健太の起こし係は由奈ちゃん。
あたしがお願いした、由奈ちゃんに。
あたしが託した、由奈ちゃんに。
制服のスカート丈を最後にチェックして、あたしは階段を降りていく。
『あ、亜季、おはよ』
お母さんが、起きてきたあたしに気がついて、笑顔でそう言った。
『おはよ』
あたしは自分の席に座って、朝食をとろうとする。
『亜季、早く食べなさいよ?
健太くんが外で待ってるんだから』
お母さんの言葉にあたしは驚いて、お母さんの顔を見る。
『朝、新聞を取りに行ったら健太くんが門のところにいてね?
あんたに話したいことがあるって』
あたしはお母さんの言葉に器をテーブルに戻す。
『あんたたち、ケンカでもしたの?』
ケンカならいい…
きっとすぐに仲直りして、いつものあたしたちに戻れるから。
でも…
『そんなんじゃない…』
あたしの言葉にお母さんは首を傾げ、“とりあえず待てせてるんだから早く食べちゃいなさいい”それだけ言った。
あたしはご飯を食べる気にもなれず、そのまま席を立ち、玄関に向かう。
あたしに話って…
健太はあたしなんかと何を話したいんだろう…
恐る恐る玄関のドアを開けると、健太はドアの横に座り込んでいた。
健太は突然開いたドアから、開けた本人を確認し、あたしの顔を見つめると、
『亜季、昨日のこと、どういうこと?』
健太は開口一番にそう言った。
『どういうことって…何が…?』
あたしはドアから出ると、健太を置いて、道路に出て行く。
『亜季!』
健太はあたしの後を追って、そしてあたしの腕を引いた。
力強い、その手の力に心が苦しくなる。
『…痛いよ?健太…』
『亜季、説明して。
昨日の、あれなんなの?』
振り向けなかった。
『だから、あれって何?』
でも、言葉だけはつないだ。
『彼女が出来た人は、彼女を一番にする、とかってやつ』
『俺は、彼女ができても、亜季との時間も大切なんだけど?』
どうしてかな…
なんでこんなに、健太は鈍いんだろう…
どうして、こんなこと、あたしに言うの…?
『亜季、亜季は違うの?』
『……違くないよ?
あたしも健太との時間は大切だよ?
でも、そうしなきゃダメなんだよ…』
『なんで?』
振り返れなくて、健太の顔は見えないけど、健太が怒ってる、それだけは声の感じから容易に想像できる。
『ねぇ、健太…
健太もあたしもお互いの時間が大切、そう思うのは、今までずっと一緒にいたからだよ?
あたしたちにとって当たり前のことで、それが普通のことだった…
でも…でも、あたし達の中では通用する当たり前のことも、普通のことも…由奈ちゃんにとったら違うんだよ…?』