チューリップの花束に愛を込めて


学校に着き、教室でぼんやり過ごしていると、担任が教室に顔を出す。


もうそんな時間なんだと一時間目の授業の用意をし始める。


担任は朝の出欠を行う。



『木坂ー、あれ、木坂 由奈ー』

担任が由奈ちゃんを呼ぶけれど、彼女の返事はない。


それどころか由奈ちゃんの席はからっぽ。




『おい…』



窓際の男子がそんな声を出す。



窓際の男子の近くの席から順に学校の門の方に覗くようにして見ている。


担任もそれに気づき、窓の方に移動する。




『あれ、木坂ー、お前遅刻だぞー』


担任が窓から叫ぶと、窓側にいた人たちが驚きの声をあげる。




『え…ちょっと…てか何、ケンカ?』


『あ…木坂走り出した』


『てか、隣の前田は追わないの?』


『普通に修羅場だった感じ…?』


何人かのざわめきの声に、あたしは窓の方に移動する。


ふと、下の方を見ると、健太が俯いている。




健太…?



何があったの…?



でも、健太は一歩もそこから足を動かさなかった。




『とりあえず…お前ら一時間目の準備をしろー』

担任は慌てた様子でそう言うと、クラス中がざわざわしながらも教科書を広げだした。





…健太…


健太を見つめていると、何かがポツリと落ちていった。

空を見上げると、黒い雲が広がっていて、そこから冷たい雨が落ちていく。



まるで、健太を洗い流すんじゃないかって勢いの雨になり、健太はそれでもそこに立ち尽くした。



あたしは、自分の席に戻った。

と、同時に教室に入ってきた由奈ちゃんにものすごい目で睨まれた。



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