チューリップの花束に愛を込めて
『ちょっと、由奈…どうしたのよ…?』
友達の言葉を振り切って、由奈ちゃんは迷わずあたしの元に歩いてくる。
『由奈?』
友達は心配した様子で、由奈ちゃんの後を追いかけてくる。
『あとで話があるの』
由奈ちゃんにしてはすごく低い声で、あたしにそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。
訳がわからないままに、あたしは担任と入れ替わりで入ってきた教科担任の授業が始まり、心ここにあらず、その言葉がピッタシなくらい、由奈ちゃんの言葉、そして健太の俯く、あの姿で頭の中はいっぱいだった。
そして休み時間になり、再び由奈ちゃんはあたしの元にやってきた。
『話があるの』
そう言って由奈ちゃんは廊下に出て行く、あたしは訳も分からず、その後についてく。
廊下の端まで来ると、そこにある階段の踊り場で、由奈ちゃんは振り返った。
『健太くんと亜季さんは“幼馴染”ですよね?』
開口一番に、由奈ちゃんはそう問いかけてきた。
『…え…?』
『朝、健太くんと一緒になって、健太くんに言われたの』
由奈ちゃんは怒ってるのか、それとも泣くのを我慢しているのか…
なんとも言えない、その空気をまといながら、あたしに言葉をつむぐ。
『…別れたいって』
由奈ちゃんの言葉に、あたしの頭は真っ白になった。
『…え…どういうこと…?』
『そんなのあたしが聞きたい!』
あたしの問いかけに、由奈ちゃんはビシッとそう答えた。
いつもの可愛らしい声じゃなく、怖くて、そして冷たい返事だった。
『…ただの幼馴染なんじゃないの…?』
『健太……健太がそんなこと言ったの…?』
『聞かれたの…
自分と付き合ったら、一番にしてほしいかって。
あたし、答えた…誰だって彼女が一番でしょ…?
一番に想ってほしいって…そう言った…。
そしたら一番にはできないって…』
…なんで…?
なんで、健太…?
『あなたとの時間も大切したいから…だから一番じゃなきゃダメなら別れてほしいって……』
『どうして!?
どうして彼女になれたのに…私がそんなことを言われなきゃいけないのよ!』
由奈ちゃんはそれだけ言って、あたしに背を向け、教室の方に走っていく。
取り残された、あたし。
何が起きたのか、もう整理してるほどの心の余裕すらない。
健太…
なんで、そんなこと言うの…?