チューリップの花束に愛を込めて


『ちょっと、由奈…どうしたのよ…?』


友達の言葉を振り切って、由奈ちゃんは迷わずあたしの元に歩いてくる。



『由奈?』


友達は心配した様子で、由奈ちゃんの後を追いかけてくる。




『あとで話があるの』


由奈ちゃんにしてはすごく低い声で、あたしにそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。


訳がわからないままに、あたしは担任と入れ替わりで入ってきた教科担任の授業が始まり、心ここにあらず、その言葉がピッタシなくらい、由奈ちゃんの言葉、そして健太の俯く、あの姿で頭の中はいっぱいだった。

そして休み時間になり、再び由奈ちゃんはあたしの元にやってきた。



『話があるの』

そう言って由奈ちゃんは廊下に出て行く、あたしは訳も分からず、その後についてく。


廊下の端まで来ると、そこにある階段の踊り場で、由奈ちゃんは振り返った。




『健太くんと亜季さんは“幼馴染”ですよね?』


開口一番に、由奈ちゃんはそう問いかけてきた。



『…え…?』


『朝、健太くんと一緒になって、健太くんに言われたの』



由奈ちゃんは怒ってるのか、それとも泣くのを我慢しているのか…

なんとも言えない、その空気をまといながら、あたしに言葉をつむぐ。




『…別れたいって』




由奈ちゃんの言葉に、あたしの頭は真っ白になった。




『…え…どういうこと…?』


『そんなのあたしが聞きたい!』


あたしの問いかけに、由奈ちゃんはビシッとそう答えた。


いつもの可愛らしい声じゃなく、怖くて、そして冷たい返事だった。






『…ただの幼馴染なんじゃないの…?』



『健太……健太がそんなこと言ったの…?』



『聞かれたの…
 自分と付き合ったら、一番にしてほしいかって。
 あたし、答えた…誰だって彼女が一番でしょ…?
 一番に想ってほしいって…そう言った…。
 そしたら一番にはできないって…』



…なんで…?


なんで、健太…?



『あなたとの時間も大切したいから…だから一番じゃなきゃダメなら別れてほしいって……』




『どうして!?
 どうして彼女になれたのに…私がそんなことを言われなきゃいけないのよ!』



由奈ちゃんはそれだけ言って、あたしに背を向け、教室の方に走っていく。



取り残された、あたし。


何が起きたのか、もう整理してるほどの心の余裕すらない。




健太…


なんで、そんなこと言うの…?




< 23 / 41 >

この作品をシェア

pagetop