チューリップの花束に愛を込めて


健太の言葉に胸の鼓動が速くなる。



健太、それはあたしに幼馴染として傍にいてほしいってこと…?



それとも…




『なーに、言ってんのよ!
 ほら、もう下校時間、帰ろ!
 あたし、健太の荷物も持ってきてあるから!』


あたしは元気よく、健太に向かってカバンを投げる。


空っぽのカバンを健太はヒョイっと受け取り、ベッドから降りる。




『…亜季、帰ろっか…』


健太はそう言いながらも、少し寂しそうな感じだったけど。


あたしはそれに気付かない振りをして、先に保健室を出た。


その後を健太はついてくる、下駄箱まで二人共何故か無言。



先に沈黙を破ったのは、健太。



『亜季、俺、やっぱり由奈ちゃんとは別れるよ』


語尾まで言い切る健太の言葉にあたしは横の健太を見つめる。


健太は上履きと靴を履き替え、下足箱に上履きを戻し、下足箱に視線を置いたまま、静かに口を開く。




『俺、亜季と離れて分かった気がする。
 俺にとって亜季と過ごす、今みたいな時間が』


『健太、朝も言ったでしょ?
 健太はあたしに気を遣うことはないんだって』


健太の言葉に、自分の言葉を被せる。


きっと、健太は、由奈ちゃんと過ごす前の時間と由奈ちゃんという存在ができてから過ごす時間があまりにも違うから、きっと動揺してるだけ。


だから、きっと、健太の真っ直ぐな言葉を聞かないほうがいい。


聞いて、傷つくのはもういやだ…





ケンカした訳でもないのに、こんな風に会話がないのは苦しい。


でも、どちらも、なんの話題を切り出せばいいか分からずで。



そんな時に、小さな、でもおしゃれな感じのお花屋さんが目に入った。



『健太、ちょっと寄ってってもいい?』


『…え…うん』


あたしがお店に入ると、健太も後をついて入店した。



所狭しと言わんばかりに沢山のお花が並んでいる。



季節は五月の終わりを迎える。



でも、目の前には綺麗なチューリップが置かれていた。





『…きれい』


あたしが呟くと、



『亜季、黄色のチューリップがあるよ』


健太は黄色のチューリップを指差しながら、そう言った。



『本当だ、やっぱり黄色は元気をもらえる色だよね』



『亜季、これ、買ってやるよ』


健太はそう言って、黄色のチューリップをいくつか取り出し、レジの方に持っていく。




『健太!』


あたしの声に健太が振り向く。




『ねぇ、あたしが健太に買ってあげるよ!』

あたしは健太から強引にチューリップを取り上げ、そしてレジで“可愛くラッピングしてください”と告げた。


5分後、可愛らしいチューリップの花束が出来上がった。


あたしはそれを受け取り、お店の外まで出て、あとから来た健太に手渡す。






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