チューリップの花束に愛を込めて
でも、中学生になり、思春期を迎えた頃。
亜季は一年ごとに“女”に変わっていった。
体はもちろんのこと、顔もキレイになっていく。
その横で、俺は何度も見てきた。
亜季が俺の知らない奴から、“いいな”と想われていたりすること、告白されてるとこ。
その度に亜季は振り続けていたけど、それでも亜季に告白する奴も絶えなかった。
今は、亜季が断ってる。
だから、俺が亜季のヒーローのままかもしれない。
でも。
もし、亜季が想ってる奴に告白されたら?
そしたら、俺の知らない奴が、亜季のヒーローになるのかもしれない…
亜季のヒーローだけを目指してきた俺は、亜季のヒーローじゃなくなったとき、一体何になるというんだろうか。
亜季に俺を忘れないで欲しいと思った。
俺が亜季のヒーローだから、亜季のヒーローになるから、亜季は他の奴を見ないで、そう何度も心の中で繰り返した。
でも、ある日、俺は亜季の口から聞いてしまったんだ。
『亜季って、健太と仲いいけど、付き合ってんの?』
『え、なんで?』
『だって朝も一緒だし、帰りも一緒だし。
教室にいてもよく話してるし』
友達のからかいに、亜季は静かに、でもはっきりとした声で答えた。
『ただの幼馴染だよ』
“ただの幼馴染だよ”
亜季の言葉、俺の心臓を一突きする。
だって、俺は亜季のヒーローになりたい、そう思ってたのに。
亜季にとって、俺は“ただの幼馴染”だと知ってしまったから。
だから、俺は決めたんだ。
亜季の幼馴染でいる、でもその代わりに、誰よりも、亜季が想いを寄せている奴よりも、亜季が辛いときにすぐに助けられるように。
慰めにいけるように、守れるように。
それだけ近い距離にいようと。
それだけ、彼女の心を見過ごさない、そんな距離にいようと。
彼女の心の迷いは見過ごさない、
そう決めたはずだった。