チューリップの花束に愛を込めて


ケンカして、顔を合わせないこともあった。

二人で大泣きして、二人で“ごめんね”を言い合ったこともあった。

笑い転げたこともある。


あたしの毎日には健太がいたし、あたしの思い出にも健太は必ずいる。


これだけ長い時間を一緒に過ごしてきたんだから、お互いになんでも分かり合える、そう思ったんだけど。



でも、最近、そうじゃない。




『お待たせ、亜季』


まだ眠いのか、健太は目を擦りながらそう言った。

少し着崩した制服の着方、眠いと言いながらも髪型をバッチリに決めてる健太。


それは、きっと、あの子のため、だよね…


ちょっと前までは健太もあたしとバカをやってるだけの男の子って感じだった、あたしも健太もお互いに居心地が良かったし、楽しかった。


でも、今は違う。


確かにあたしとバカをやるけど、でも制服の着方一つとっても、髪型にしても、健太は気を遣うようになった。



別にそんなことをしなくても、健太は十分にかっこいいのに。


そもそも健太のいいところは容姿というよりも、健太の優しさだと思うんだけど。



それでも恋に恋してる健太には、あの子に振り向いてもらえるための努力を惜しまない。



そんなに、相手のために努力しなきゃいけない?

そんなに、あの子のことが好き?



健太が、初めて“好きな人がいる”、そう報告をした日から、あたしには健太のことで分からないことが増えていく。



でも、健太に聞けない。





『健太、本当に一人で起きれるようになってよね?』


隣で眠たそうにしてる健太にあたしは文句のように言い放った。



『なんで?亜季は俺の起こし係なんだからいいじゃん?』

そんな普通の顔をして言われても…



でも、健太に好きな人ができても、変わらずあたしの存在を忘れてない、そんな健太の言葉にドキドキするのはおかしいかな…?





『何言ってんのよ?
 由奈ちゃんと両想いになったら、由奈ちゃんが電話で起こしてくれるかもよ?』


そんな冗談を言えば、健太がどんな顔をするのか分かってる。



『…それ、いいかも』


…ほら、顔を真っ赤にしちゃって。


でも、


『けど、起こし係は亜季に頼むよ。
 俺、寝起き悪いし、もう亜季に起こしてもらうのがいつものことだし』



例え冗談でも、健太は傍にいさせてくれる。

あたしに“幼馴染”としての役割を与えてくれる。



だから、あたしは健太に好きな人ができても、健太との関係は変わらないって思ってしまう。



< 4 / 41 >

この作品をシェア

pagetop