チューリップの花束に愛を込めて



そして放課後。


健太がクラスに顔を出し、あたしは急いでカバンを肩にかけ、健太の元に向かう。



『亜季、今日は歌うぞ』


『うん、新曲は絶対あたしが一番先に歌うからね』


あたしは、健太と二人きりのカラオケが嬉しくて、楽しみで、ちゃんと前を見ていなかった。




ードンッ…

肩と肩がぶつかり、その反動であたしは振り返る。


そこには健太の想い人でもある、由奈ちゃんが立っていた。



『ごめんなさい、痛くなかった?』


その可愛らしい声に女のあたしですらえドキッとさせられるものがある。




『あぁ~大丈夫です、てか、あたしの方こそごめんなさい、ちゃんと前を見てなくて』


あたしが謝ると、由奈ちゃんは可愛らしく、手を口元に添えて笑った。


到底、あたしが真似できるような仕草じゃない。





『由奈ちゃん、大丈夫?』


すかさず健太が由奈ちゃんに確認をする。



『私は大丈夫だよ。
 気にしてくれてありがとう、健太くん』


由奈ちゃんはそう言って、健太に微笑む。




………?



あれ?



今、由奈ちゃん、“健太くん”って言った…?



この二人、クラスも違うし、話したこともないはずなのに…。



由奈ちゃんの微笑みを見て、健太は顔を真っ赤にしている。



あたしは、そんな二人の顔を見る。




あたしの記憶違いじゃなければ、健太に由奈ちゃんと話したことあるなんて聞いてないよ?



話したことのない間柄なのに、名字ではなく、名前呼び…?




そこから広がる、暗雲。




『良かった』


健太はそう言って微笑む。



ねぇ、健太、さっきの名前呼びってどういうこと?


一生懸命、健太の背中に問いかける。


でも、言葉にして伝えなければ本人には届かない。







『…じゃ、亜季、行こっか』



あたしの問いかけに健太からの返事はない、当然のことだけど。


でも、健太は由奈ちゃんからあたしに視線を変えて、そう言った。



そんな些細なことにもホッとするあたし。





『…うん』



健太と歩き出し、でもあたしはチラッと振り返る。


そこには、健太の背中を見つめる、由奈ちゃんがいて、その視線の熱さにあたしの心が高鳴る。





もしかして、由奈ちゃんも健太のこと…


好き、なの…?





『亜季?』



健太が隣にいないあたしに気がついて、振り返って、あたしの名前を呼ぶ。



今、健太が一緒にいるのは、あたし。

今、健太が名前を呼んでくれたのは、あたしの名前。




でも、


それでも、あたしの不安は募る。



違うよね?


由奈ちゃん、健太のこと、好きじゃないよね?




ねぇ、健太…




『亜季、どうしたの?』


心の不安が顔に出ていたのかもしれない。

健太はあたしの顔を覗き込むようにして見つめてくる


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