優しい狼。

でも、ある日の学校からの帰り道。いつもは龍樹君と一緒に帰るのにその日はどうしても外せない用事があると言って、一人で帰っていた。日も沈み、薄暗い道を一人で歩くのがなんだか怖くなり、いつもは使わない人通りのない近道へと入っていった。すると後ろから一台の黒いワゴン車が走ってきて私の隣に止まる。それはあまりにも一瞬で。
ドアが大きく開け放たれ、中から何人かの手が伸びてくる。悲鳴を上げる暇もなく車内へ引っ張り込まれる。
後ろへと押し込まれ、そのまま走り去ろうとする車。
「龍樹の女で間違いねぇよな?」
男たちが話し合う声が聞こえる。
そこになぜ龍樹君の名前が出るのかわそのときわからなかった。
あぁ、誘拐されるんだと他人事のように認識していると外から若い男の怒鳴り声が聞こえる。
すると、車内の男たちは
「やばい!虎の奴らだ!どこにいやがったんだ!!」
虎…?外を見ると何人もの柄の悪そうな男たちが車を取り囲んでいた。
「こいつら引きずり出せっ!」
リーダー格の男がそう言うと車にロックをかける暇もなく扉を開けられ車内にいた男たちを容赦なく引きずりおろす。
そして殴り合いが始まった。
目の前の光景が信じられず、車内の端で小さくなる。
車内からでも聞こえる男たちの怒号。殴り合う音。それらすべてが恐怖でしかなかった。
耳を塞ぎ小さくなる。その全てから逃れるように。

外の怒号が次第に収まっていくが、それでもまだ小さくなる私。

「ゆいっ…!!」
突然開けられたドアにビクリとする。
そこには龍樹君の姿があった。
「た…つき…く…」
言い終わらないうちに強い力で抱きしめられる。
「…ごめん…結…ごめんな…」
耳元でそう囁く龍樹君。その声を聞いて先ほどまでの出来事が思い出され、今更のように涙が溢れてくる。龍樹君の体温をそばで感じながら龍樹君の腕の中で泣きじゃくった。泣いている私を龍樹君はただ抱きしめ、頭を撫でていてくれた。


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