優しい狼。
龍樹君に促され奥のソファに座る。
「それじゃ、取り敢えず自己紹介してやってくれ。」
龍樹君の一言でそれぞれ自己紹介がはじまる。

「んじゃ俺から!波多野 拓(はたの たく)!高一だよー!よろしく♪」
一番幼くみえた彼は、どうやら私と同じ歳らしい。
そして次に立ったのはメガネの男。
「柴田 隼人(しばた はやと)だ。二年だ。」
相変わらず硬いな~といって日野先輩が立つ。
「知ってるだろうけど、日野 直弥(ひの なおや)です。これも知ってるだろうけど俺も三年です。改めてよろしくね。」
こうして全員の自己紹介が終わる。その場全員の視線が龍樹君に集中する。

「結、今まで黙ってて悪かった。俺は結いにまだ話してないことがあるんだ。」

真剣な顔でこちらに向き直る達樹君。

「ここにいる俺たちや、さっき下にいた連中全員、暴走族なんだ。それで俺はここの、焔虎の総長をしてる。ここにいるやつらも直哉を副総長として幹部の面々だ。」

まったく気づかなかった。確かに龍樹君のことを最初は怖く感じていた部分もあった。多分とその怖さはここからくるものだったんだ。
「今まで黙ってて悪かった。結に話すのが…怖かったんだ…。でもそのせいでこんなことになって…、ほんとにすまない。」
弱々しくうつむく龍樹君。
怖くないと言えば嘘になる。暴走族なんて、全く別の世界の話だと思ってたし、龍樹君の話からすると、さっき私が襲われかけたあの男たちも多分龍樹君側の人間なんだろう。
怖くないと言ったら嘘になる。
でも正直に話してくれたことが嬉しくもあった。
「結に俺たちのことを知らせずにいようと思ってた。その方が結を怖がらせずにすむって思ったから。甘かった。ほんとごめん。」
深々と頭を垂れる龍樹君。
「だ、大丈夫だよ?確かに怖かったけど、龍樹君が私を助けてくれたからなんともなかったし、本当のこと話してくれて嬉しかった。」
私の言葉が意外だったのか驚いた顔でこちらを見つめる。
「…俺らのこと、怖くないの?別れたいとか思わないの?」
とても弱気な龍樹君がおかしくて思わず笑ってしまう。
「んー。怖くないって言えば嘘になるけど、それ以上に優しい人だって知ってるから。それとも龍樹君は私とお別れしたい?」
言い終わるや否や、目の前が龍樹君でいっぱいになる。力強いけど優しく抱きしめてくれる。
「そんなわけねーじゃん…!。」
この腕に守ってもらえるならなんだって怖くないって思えたんだ。
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