蕾の妖精たち
 翠川は草むらに少女を寝かせ、電話ボックスまで走った。

 震える手を押さえ、警察を呼んだ。


 救急車を引き連れてやって来た警察に、翠川は事情を話し、少女はそのまま病院へと運ばれた。


 翠川は救急車へは乗り込まず、警察署へ赴くことにした。


 今回の事件は、少女にとっても、消せない記憶になるだろう。

 会わない方がいい、翠川は、そう思った。


 パトカーに揺られながら、少女の表情が脳裏から離れなかった。

 小男の頬を踏み続けた、あの少女の鮮烈な顔を、翠川は、忘れることが出来なかった。



 警察の事情聴取が終わった。


 外に出ると、雨が降っていた。

 土砂降りではなかったが、しんしんと雨粒がアスファルトに消えた。


 もう、十分に暗くなっていた。

 翠川は下宿までの雨の道のりを、首と肩の間に傘を挟みながら、警察が運んでくれた自転車を押して、黙々と歩んだ。



第一章

「原点」


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