蕾の妖精たち
「相談事って、何かな」
幸乃を前に、汗でびっしょりになっていること、翠川は気付いた。
一直線に見つめる幸乃の眼差しを反らし、ハンカチを額やこめかみに押し当て、手の中に丸めた。
「先生、私、まだ追われているんです」
「追われている?」
「私を強姦した男です。四年前に先生が助けてくれなかったら、犯人だけが逃げて、きっと私、直ぐにでも死んでいました」
「……やはり、僕の事を覚えていたんだね」
「はい」
「それでその男が、刑務所から出てきて、また、君に付き纏っているというのかい?」
「はい」
それは有り得なかった。
翠川が捕まえたのは、その頃に同じ大学にいた四年生、斉藤和志。
ストーキングが趣味で、片想いが募ったのであろう。
彼は三年の懲役刑を受けたのだが、突然、獄中で首を吊り、自殺したのだ。
「本当にあの時の男なのか? 間違いじゃないか」
「いえ、いつも影が近付いて来るんです。もう怖くって、怖くって……」
幸乃は話しながら、両腕を押さえて震え出した。
「先生、お願いです。私のことを見ていてくれませんか。今から家に帰ります。その間だけでいいんです」
「しかしだな」
「警察は何も動いてはくれません。あの時だって、私は警察に、何度も何度も助けを求めたんです」
「そうだったのか」
「それなのに、私は犯され、それから警察が動いた。だから、本当に助けてくれた先生しか、私は信じられないんです」
幸乃を前に、汗でびっしょりになっていること、翠川は気付いた。
一直線に見つめる幸乃の眼差しを反らし、ハンカチを額やこめかみに押し当て、手の中に丸めた。
「先生、私、まだ追われているんです」
「追われている?」
「私を強姦した男です。四年前に先生が助けてくれなかったら、犯人だけが逃げて、きっと私、直ぐにでも死んでいました」
「……やはり、僕の事を覚えていたんだね」
「はい」
「それでその男が、刑務所から出てきて、また、君に付き纏っているというのかい?」
「はい」
それは有り得なかった。
翠川が捕まえたのは、その頃に同じ大学にいた四年生、斉藤和志。
ストーキングが趣味で、片想いが募ったのであろう。
彼は三年の懲役刑を受けたのだが、突然、獄中で首を吊り、自殺したのだ。
「本当にあの時の男なのか? 間違いじゃないか」
「いえ、いつも影が近付いて来るんです。もう怖くって、怖くって……」
幸乃は話しながら、両腕を押さえて震え出した。
「先生、お願いです。私のことを見ていてくれませんか。今から家に帰ります。その間だけでいいんです」
「しかしだな」
「警察は何も動いてはくれません。あの時だって、私は警察に、何度も何度も助けを求めたんです」
「そうだったのか」
「それなのに、私は犯され、それから警察が動いた。だから、本当に助けてくれた先生しか、私は信じられないんです」