蕾の妖精たち
「嫉妬です」

「嫉妬……」

「彼女は私の受け持っていたクラスメートにまで、矛先を向けています」

「好きになった先生を、一人占めにしたい訳ね。子供の発想ね」

「確かに子供の発想かも知れません。ですが、彼女にはそれ以上の何かを……」

「何かって?」

「情念のようなものを、感じるのです」


「……分かったわ。でも、貴方に一つだけ忠告しておくわ。昔の事件を引きずって、あの相川幸乃っていう生徒に、これ以上、変な風に責任を感じて、入れ込んだりしないことね」

「……」

「……返事がないわね。本当に好きになったの?」

「わかりません」

「相手は子供よ」

「……すみません。今はその話よりも、クラスが心配なのです」

「そうだったわね。気を付けておくから、心配しないで」


 ◇


 林間学校へと向かうバスが、山間を抜けて、キャンプ場へと向かっている。

 榊舞子は翠川孝之との会話をボンヤリと考えながら、時々、通路を挟んで、斜め後ろに腰かけている相川幸乃の様子を伺っている。

 相川幸乃は美しい。


 子供だなんて、舞子が翠川に放った言葉が、今更、薄っぺらく思えてならなかった。


 悔しい……。


 そんな気持ちが声になって、口元から漏れそうになった。

 
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